レンタル日記帳はナスカ

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...... 2010年03月16日 の日記 ......
■ 「中島みゆき」   [ NO. 2010031601-1 ]
1.湾岸24時 2.御機嫌如何 3.土用波 4.泥は降りしきる 5.ミュージシャン 6.黄色い犬 7.仮面 8.クレンジングクリーム 9.ローリング
アレンジャーには前作「36.5℃」で起用した5人の中から椎名和夫(7曲)と久石譲(2曲)が参加。ミックスダウンは再びNYはパワーステーションでラリー・アレクサンダーによって行われた。前作で行った意欲的なトライをより研ぎ澄まし、整理して提示してみた、そんな一作かもしれない。と同時に、次作「グッバイガール」からは瀬尾一三との不動のタッグによるアルバム作りが続くことになる。結果的に、サウンド面での試行錯誤を繰り返したいわゆる"ご乱心時代"に終止符を打つ一作になった。

自らの名前をそのまま冠したアルバムタイトルが目を引くけれど、聴き心地としては変に肩肘張った印象はなく、むしろしれっとした余裕さえ感じさせるもの。「湾岸24時」「御機嫌如何」「Fouryou」「ミュージシャン」などは前作のロック路線を引き継いだアプローチだけど、ことさら即送営業部を前面に押し出していた前作の収録曲に比べると一歩引いた抑制があり、ポップな仕上がりになっている。

いっぽうで注目したいのは、翌年89年から独自のシリーズ・コンサート「夜会」を開始することになる彼女の、演劇めいたボーカルコントロールが本領を発揮している曲が数曲収録されていること。久々に直球の"ふられ女の恨み節"が戻ってきた気がする「泥は降りしきる」の、"顔で笑って心で泣いている"見事なニュアンスは、歌詞を字面で読んだだけでは伝わらない。「黄色い犬」の妖艶かつ挑発的な歌いっぷりも実に魅力的。 7分半に及ぶ本作最長のナンバーで、歌詞も実に裏読みしがいがあり、本作のハイライトの一つだ。さらに真骨頂といえるのが「クレンジングクリーム」。"クレンジングクリームひと塗り いやな女現われる" "クレンジングクリームひと塗り ずるい女現われる"といった調子で同じフレーズとメロディが延々と繰り返されるのだが、 1フレーズごとに微妙にニュアンスを変えるボーカルのコントロールが耳を離させず、楽曲だけ見れば単調なつくりなのに実にイマジネイティヴな一曲に仕上がっている。それこそまるで演劇を見ているようで圧巻だ。

"淋しさを 他人に言うな 軽く軽く傷ついてゆけ"と歌う終曲「ローリング」は、彼女らしい厳しさと優しさを備えた応援歌。世の中に"頑張れ"と歌うポジティヴな応援ソングは幾らでも溢れかえっているが、彼女のそれは生きていくうえで否応なく受け入れざるを得ない傷や挫折、諦念、絶望といったネガティヴさにしっかりと視線を向けたうえでの "それでも、その足で立って生きろ"というメッセージであるから、その深みと説得力は凡百の応援歌とは比べ物にならない。

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